大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和57年(行ク)1号 決定 1982年4月30日

申立人

古市滝之助

右訴訟代理人

宮本康昭

主文

本件申立を却下する。

理由

一本件申立の要旨

申立人代理人は、「当庁昭和五六年(行ウ)第六号差押処分無効確認等請求事件(以下「本件訴え」という。)の被告水戸税務署長を被告水戸税務署収税官吏増田茂雄、同根本博雄に変更することを許可する。」との決定を求め、本件訴えにおいて被告を水戸税務署長としたのは誤りであるが、申立人が右の誤りを犯すについて重大な過失がなかつた理由として別紙「申立の理由」記載のとおり主張する。

二当裁判所の判断

(一)  申立人は、本件訴えにおいて、申立人が酒税法違反の嫌疑により受けた酒類等の差押処分の無効確認等を求めているものであるところ、国税犯則取締法(以下「国犯法」と略す。)二条による捜索差押処分は独立の行政庁たる収税官吏が行うものであり、このことは、同条のほか、同法三条、三条の二、四条ないし一二条、同法施行規則二条、四条、五条、八条、国税通則法七五条、七六条、行政不服審査法四条一項七号に照らし明らかである。

そうすると、差押処分の無効確認等を求める本件訴えは、行政事件訴訟法三六条、一一条により、税務署長ではなくして、当該差押処分を行なつた収税官吏を被告としなければならないのであり、申立人は本件訴えを提起するにつき被告とすべき者を誤まつたことになる。

(二)  そこで、申立人において被告とすべき者を誤まつた点につき故意又は重大な過失がなかつたか否かについて検討するに、本件記録によれば本件差押処分の際、差押処分をなした収税官吏根本博雄及び同増田茂雄の両名は、それぞれ水戸税務署収税官吏とその官職を記載し署名押印をなした差押目録の謄本各一通を申立人の従業員もしくは関係者に交付しており、申立人ないし申立人の訴訟代理人は容易にこれを入手し検討しうる地位にあつたことが認められる。

そうすると、少くとも弁護士である本件訴えの代理人においては、わずかの注意を払つて前記各法規の定めや右書面を検討すれば、処分者が収税官吏であつて、これを被告として無効確認等の訴えを提起すべきであることは容易に判明しえたものというべく、したがつて税務署長を被告として本件訴えを提起したことは右代理人が法律専門家として要求される注意を著しく欠いたものであつて、重大な過失があるといわざるをえない。しかして、申立人が訴訟代理人を選任し、これに訴訟遂行を委任している場合において、当該訴訟代理人に行訴法一五条の「故意又は重大な過失」がある場合その効果は申立人に及ぶのであるから、右に述べた如く、申立人代理人において、本件訴え提起につき被告を誤まつたことに重大な過失があるといわざるをえない以上、本件被告変更の申立はこれを認めることができない。

なお、申立人は、被告を誤まつた理由として、本件差押処分を受けるまでの間、申立人は、税務署長名義の警告書や回答書を受け取つていたこと、本件差押処分は水戸税務署職員が大挙動員されてなされたこと、収税官吏といえども実質は水戸税務署の一職員であつて税務署長の指揮のもとに行動していることは明らかであること等の点をあげているのであるが、右のような事実をもつて直ちに申立人に重大な過失がないとはなし難い。

三よつて、本件被告変更の申立は理由がないので却下することとし、主文のとおり決定する。

(龍前三郎 新崎長政 大澤廣)

(別紙)

申立の理由

(一) 本件捜索差押の原因となつたボトルカード方式による酒類販売については、これを適法とする申立人側と違法とする水戸税務署長との間に従来から議論のやりとりがあり、水戸税務署長名義による警告書や同じく水戸税務署長名義による回答書が申立人あてに送られて来たりしていた。また本件差押の場所において酒類販売を行ないたいとする申立人による酒類販売業免許申請についても水戸税務署長事務代理の名義で拒否の通知がなされた。

これら一連の経過の中で本件の差押が行われ、これが同じ水戸税務署員を大挙動員してなされたので申立人はこれまた水戸税務署長によつてなされたものと考えたのである。

(二) 申立人は、国税犯則事件を常時ひき起しているわけでもないし、行政訴訟にそれほどの経験があるわけでもない。税務に関する事務を業務として日常行ない、税務訴訟を多数取扱つている被告側とは同日の比ではない。申立人に被告を誤つた過失があつたとしてもそれは重過失ではない。

(三) 加えて、国税犯則嫌疑による捜索差押に対する不服申立方法については諸説あり、東京地裁が、これを刑事手続に則り準抗告によるべきだとした決定例もある。右の見解は最高裁大法廷決定によつて覆えされてはいるが、被告がいうようにそれほど明白で疑問の余地のないものではない。

(四) 警告あるいは回答をし、拒否処分をするのは税務署長、差押をするのは収税官吏、といつても、それは肩書の違いだけであつて、実質的には全く同じ水戸税務署員が、水戸税務署の統一的な意思を実現すべく行動しているのであつて、税務署長と収税官吏がまつたく別の人格というわけではない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例